【テーマごとのコメント】
1. 不正受給に関するファクト、実施機関の抱える課題
(1) 不正受給について
まず、宇都宮さんも発言されていましたが、不正受給は金額ベースで0.5%、世帯ベースで2.3%であるということ。しかし、この数字が小さいか大きいかの議論では、国民の理解は得られないでしょうし、私も不正受給はよしとはしません。
着眼点は、次の数字です。
- 稼働収入の無申告50.1%、過小申告10.1% = 60.2%
- 各種年金等の無申告 = 28.1%
- 発見の機会 = 課税突合調査 9割
課税突合の発見が9割ということは、日常の業務の中で、生活状況の把握、制度の説明や申告のフォローなどができていないということです。年金は事前にわかりますし、交通事故なども把握できます。これは「不正支給」状態です。また、煩雑な事務による事務遅滞、事務懈怠による濫給や漏給などの「不適正処理」は全国的に存在し課題であるものの、自治体(実施機関)のみでは対策ができずに不適正処理が蔓延化するなど放置されています。ケースワーカーの病欠の要因でもあります。
(2)「不正受給」は「不正支給」ではないのか。
問題なのは、この「不正受給」と言われているものの精査がされていないことです。
不正受給かというところですが、生活保護法第78条では、
- 不正受給かどうかという点できちんとした調査をしていない
- 申告がないという点でいきなり不正としている点に問題ある
宮城県知事裁決、横浜地裁判決ではいずれも高校生のアルバイト、これを取り消したものです。これら類似する処分取消し審査請求、訴訟、審査請求ないし訴状の提出で処分を職権で取り消す例は多数あります。
よく把握し、説明していれば、高校生のアルバイトは収入申告(控除あり)や年金等も生活保護法第63条の扱いで済むものが大多数に思います。
(3)どうして不正支給が行われるのか 福祉事務所の状況 専門性とあり方
そして、次に実施機関の説明責任です。
出展)厚生労働省「平成21年 福祉事務所現況調査の概要」
適正な業務ができる状態にないということが問題です。
多くの被保護者や要保護者は生活保護の届け出などのルールを知りません。
それを説明する側のケースワーカーも素人が多い実態であるということです。専門性が問われる業務でありながら、このことは長年放置され続けています。
どういう時にどのように申告が必要なのか、その申告の際に収入認定がどうなるのか、「減らされる」などという誤解を抱いている場合もあります。控除についても事前に説明が必要です。
稼働収入にせよ、年金等の収入にせよ、事前に丁寧な説明が必要です。そして、それを実行するための体制が整備されなければこの問題は解決への一歩になりません。
※補足
私が2014に公共政策のリサーチペーパーで、福祉事務所にアンケートを実施した結果の中に、「保護の開始の時以外に支給額の内訳や変更の詳細を説明しているか」の問いに、「していない」が44.2%、「年に1~2回している」が34.4%でした。
保護開始時はとても様々な問題を抱え混乱期にあります。その状況をみながら世帯への必要な説明を何度も個別の方法で説明したり、手続きするために直接同行支援したりしながら行うことが多いです。
収入申告の結果、通知書には詳細が書かれていないので、被保護者は理解できませんから、計算式や内訳書を手書きにして理解できるよう説明もしたりしました。
その上で不正かどうか、意志確認も必要です。その「義務」を知っていたかという点です。
アンケートのもう一つの項目で「保護の権利・義務を開始時以外にしているか」の問いに、「していないが」44.8%でした。
補助金による一部の自治体の調査や大学の科研費をあてにしての大学主導の一部の調査ではなく、国が全国福祉事務所へ行う概況調査に加えて、体制や運用実態など詳細な「実態調査」を行わなければ実態とかけ離れた方針ばかりとなり改善になりません。
(4)これから、どうしたらよいか。
まず、生活保護は真に憲法と法律と指導要領が適切に運用できるよう、構造的な原因を明らかにすること、当事者をはじめ、ケースワーカーや福祉事務所全体の業務実態の把握と検証、あり方について、今までのレベルではなく政府をあげて取り組むことが急務と考えます。
生活保護は、生存権を守る最後のセーフティネットとしてかけがえのない制度です。自立への出口もままならない中、今では入口までの閉ざされた状況にあります。
不正不正と、ことさら言い立てて、大多数の受給者の自尊心、あるいは基準額以下で何とか生活している人の申請を心理的に抑制している結果になってしまいます。
生活保護へのスティグマを強調することが、不正受給抑制につながりません。
バッシングしたり、スティグマの毒を吐いたりしても、孤立させ、事は悪化するだけです。
自尊感情を大事にして自分を律する自律へ寄り添うこと、そして、出口づくりの環境整備に力を入れていくことが、この国の底上げ、自立助長につながると思います。
2. 小田原のジャンパー事件について
(1) 福祉事務所は被害者か。
番組のコメントで「大変な職場」という被害者意識こそ問題です。
この事務所の例ではありませんが、福祉事務所でおきる多くの事件はたいていその対応にも問題があります。「それは怒るでしょう」という対応をしていることがほとんどです。
クライアントは最後の砦として震えながらドキドキしながら福祉事務所にやっとの思いでたどり着くのです。
DVから逃げてきた人、自殺や借金か犯罪行為をするか、究極の選択に差し迫って自暴自棄の寸前で藁をもすがる思いで来所や電話をかけてくるクライアントを受け止めるというインテークの専門的技術はもっとも重要ですが、それ以前に取り調べのような態度や警察OBをおいてまるで犯罪者のような扱いもあります。
ケースワーカーや面接員が蔑視していると、クライアントは心を開くどころか拒絶します。
同じ事務所内で面接室から聞こえてくる声をきき「その対応はひどいなー」と思っていると、机や壁を叩いたり蹴ったりする音が聞こえたり、泣き叫ぶ声が聞こえたり、ということになります。
よく困難ケースということがありますが、そういう場合はたいていが困難ワーカーであることが多いです。周囲が気づき、危ないと思ったら、サポートに入るなど、チームで支援することが重要です。おせっかい事務所は、うまくまわります。
でも、そういう一時のベテラン任せや自治体任せにしていることが、生存権の保障を蔑ろにしてしまうわけです。ケースワーカーの自尊心のために、業務のうっぷんの矛先を被保護者や要保護者にむけるということは人権侵害であり、許されることではありません。
そもそもやりたくない人がいい仕事などできないわけですから、人事の問題は国と実施機関と人事交流やサポート体制、新たな採用基準を設けるなど、根本から法の目的を果たす機関づくりが必要です。
(2)総合相談のアウトソーシングは「行政」の責任放棄。決定権や責任が伴うことが多い。
さらに大きな問題なのは「総合相談」を実施できている福祉事務所がいくつあるか?
法定受託事務と自治事務の問題、包括的補助金、財源の問題……総合相談を的確に自治体が行えるように国を挙げて取り組まなければ、この先、悲劇は繰り返します。
実際に、何をどうしたらよいかわかない状態で来所する市民が、あらゆる制度を熟知して、「今、国保年金減免して、手当申請して、法テラスにいって、母子の貸付金受けて、不足分の1万円の保護を申請します」などという人はいないわけで、札幌で起きた白石姉妹孤立死も、千葉県銚子市でおきた母子家庭の「銚子愛娘殺人事件」も、どこにもつながっていないのではなく、行政になんらかの形で繋がっていたし、窓口にも訪れていたわけなんです。総合相談において、生活を察知したり、その背景にある問題を想像したり、何ができるか他機関の制度(他法他施策の補足性の原理)が活用できないかと、問合せや調整をしたり、地区担当員がまずは実態調査訪問をしたり、ということがないことが共通しています。
他の制度を活用すれば問題が解決したり、深刻化せずにすむかもしれないし、あるいは、訪問すれば生活は問題や実態は一目瞭然です。
福祉事務所は保護を決定した被保護者の訪問だけではなく、「要保護者」の実態を把握し、相談支援や助言を行う責任があります。
さらにいえば、急迫した状況による職権保護ができるのは、行政のみです。※この場合の職権は「速やかに保護を開始しなければならない」と「義務的」です。(生活保護法第7条、25条1項)
3. 3世代で受けているということに関連して 子どもの貧困
(1) 生活保護の教育
生活保護世帯の子どもは高校進学もつい最近(平成17年度)になってようやく認められました。子どもの貧困、いわゆる貧困の世帯の連鎖が生み出されてきたということです。
教育扶助創設時(1950年)の高校進学率 42.5%
福岡市学資保険訴訟提訴当時(1991年) 95.4%
福岡市学資保険訴訟最高裁判決2004年(平成16年3月16日)と社会保障審議会福祉部会生活保護の在り方に関する専門委員会の報告書2004年(平成16年12月15日)、→2005(平成17)年度 生活保護における高校就学費が生業扶助として創設された。
※14年間、貧困は生み出されていた。連鎖するのではなく、連鎖させられていたということではないでしょうか。
しかし、これでも課題は多いです。アルバイトを行えば収入認定になります(控除できるが処理が適切に行われないことが多い)。
民主党政権になり「すべてのこども」に高校授業料が無償化となりましたが、現政権は限定し、政策は逆行しています。しかし、今の流れにのって(選挙対策でしょうか)給付型奨学金創設をうたっていますが、基準や規模としては、貧困対策とはいえないものです。
(2)学習支援以前に必要な教育の環境整備、育ちの保障
さらにいえば、生活保護家庭や就学援助を受けている子どもたちは、なんらかの家庭の問題を抱えています。お母さんに障がいがあったり、病気だったり、お父さんがDVだったり、認知症のおばあちゃんとの暮らしだったり……。
不登校で学校とも繋がっていない、生活保護を受けていてもケースワーカーは世帯主とのやりとりだけで子どもとは繋がっていないなど、子どもが相談する場所も、子どもの育つ環境をみてくれる人もいないことが多いです。
実際に訪問すると、はけるうわばきがなかったり、制服は小さくて着れなくなっていたりとか、教材の準備ができなかったり、ゆっくりと手紙を読んだり宿題を見守ったりすることが困難な養育者であることがあります。学習支援のみならず、生活保護や困窮家庭においてはそれ以前に勉強できる環境づくりやサポートが必要です。
また、今はICT教育の推進が図られていますが、タブレットをはじめ、ICT勉強機材が自宅にあるか、ネットを使用している人がいるか、日常からの情報や知識や経験が大きな格差を招いています。教育を受けられる環境へのソフト面の支援がとても必要です。
また、生活保護や生活困窮者、低所得者家庭の子どもたちは社会経験、社会体験も当然乏しいです。生きる力や社会人となった時の仕事での応用力や人間力などに繋がる社会経験は、地域でも社会教育という場面で貢献できるのではないでしょうか。偏見差別を捨てて、地域にいるすべての子どもを対象に、子どもたちを受け入れてほしいと思います。
(3)未来への投資をすべての子どもに
「福祉」という枠ではなく、「教育」政策、次世代の人材育成としてみる。
- 今の日本、年収400万円以下の世帯では大学進学率は3割
- 子ども6人に1人が貧困状態(北海道は5人に1人)
- ひとり親世帯は半分が貧困状態
- 非正規雇用が4割を超える
- 結婚率は半分
- 大学生の2人に1人は奨学金
※返済が困難になり自己破産や生活困窮者になることも多い(実例多い)
→公正な分配、格差を無くし、人への投資へ。
〇すべての子どもに教育の保障を。
大学、専門学校、技術訓練、学び直しまで。地方には大学もない。農業や漁業や地元の産業の後を継いで、しばらくしてから社会人枠の高等教育を受けることも、将来のプロフェッショナル人材育成である。
自立の助長として生活保護世帯や児童養護施設等出身者においても保障すべきと考える。
すべての子どもに、すべての人に。
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